月夜の翡翠と貴方



「…ルトも、甘いもの好きなんだね」


ふたりでパイを頬張る。

久しぶりに食べた林檎のパイは、ちょうど良い甘さで美味しい。

「うん。果物も大体好き。林檎は特に好き」

「そうなんだ…」

…ルトは、なんでも美味しそうに食べるな。

好きなものを、好きと言える。

…私の好きなものは、なんだろうか。

甘いものは好きだけれど、特になにが好きというのはない。


「ジェイドに会う前は、よく林檎丸ごとかじってたよ」

「…それ、美味しい?」

「林檎ーってかんじ。まあ、当たり前なんだけど。腹減ったときは、よく果物かじってた」


ルトはパイを食べ終わると、まだ半分も食べ終わっていない私を見て、笑った。


「ごめん、食べるの遅くて」

「いーよ。ゆっくり食べて」


ルトは、しばらく私を見たあと、やがて周りを見渡し、「…俺さぁ」と呟いた。


「家、ないんだよね。帰る家」


予想外の言葉に、目を見開く。

ルトは「暗い話題じゃないから」と笑った。