月夜の翡翠と貴方



私はルトを見上げると、小さく「大丈夫」と口を動かした。



適当に、食べ物を買ってまわる。


「なんか食べたいのあった?」


時折人とぶつかりそうになりながら、道を進んでいく。

「…特に、何も」

「えー、遠慮するなよ」

いや、本当にこれといってないのだが。

確かに並ぶ店々の食べ物は美味しそうに見えるが、もともと好きな食べ物があるというわけでもない。

何も言わないでいると、ルトが「あれは?」とか「これは?」とか度々聞いてくる。

「…いいんじゃない」

「さっきから全部それじゃん。もっとなんかさぁ」

いかにも不満だ、という目で見られた。

…うーん。

本当に、特にない。

こういうときに、物欲がない自分に困る。

実際、奴隷になったあの日から、欲を出してはいけない生活だったから。


「…ルトは?」

見上げると、「俺?」と間抜けな顔が返ってくる。