容易く握られる手に、もう戸惑うことはなくなった。
けれど、今は別の事で苦しい。
温かなぬくもりをくれるこの手が離されるとき、私はどうしようか、と。
*
関所の近くに着くと、そこは意外なほど賑わっていた。
それこそ身なりは貧相なものの、皆大きな声で自身の品物の宣伝をしている。
食物を売っているところも、沢山ありそうだ。
「…フード、被っとかなくていいの?」
ルトが、フードをとっている私を覗き込む。
私は、「いいの」と首を振った。
「ルトの近くにいるから」
そう言って、自分の口角がわずかに上がっていることに気づき、慌てて直す。
ルトが、「そっか」とやけに間抜けな声で返事をした。
彼の近くにいるから、きっと大丈夫、という気持ちをそのまま口にしたのが悪かっただろうか。
手を繋いで歩き出すと、周りの人間が皆こちらを見てくる。
けれど、全く気にならなかった。
ルトが、大丈夫か、とでも言うように、握る手に力を込める。



