月夜の翡翠と貴方



容易く握られる手に、もう戸惑うことはなくなった。

けれど、今は別の事で苦しい。


温かなぬくもりをくれるこの手が離されるとき、私はどうしようか、と。







関所の近くに着くと、そこは意外なほど賑わっていた。

それこそ身なりは貧相なものの、皆大きな声で自身の品物の宣伝をしている。

食物を売っているところも、沢山ありそうだ。


「…フード、被っとかなくていいの?」

ルトが、フードをとっている私を覗き込む。

私は、「いいの」と首を振った。


「ルトの近くにいるから」


そう言って、自分の口角がわずかに上がっていることに気づき、慌てて直す。

ルトが、「そっか」とやけに間抜けな声で返事をした。

彼の近くにいるから、きっと大丈夫、という気持ちをそのまま口にしたのが悪かっただろうか。


手を繋いで歩き出すと、周りの人間が皆こちらを見てくる。

けれど、全く気にならなかった。

ルトが、大丈夫か、とでも言うように、握る手に力を込める。