月夜の翡翠と貴方



「………....」

…さすがに、この光景を見るのは数年ぶりだ。

貴族の家で奴隷として飼われていても、主人が舞踏会へ出かける時は、ひとり冷たい牢屋に置き去りにされた。

最後に踊ったときは、確か幼い私は兄と笑顔で踊っていた気がする。

はしゃぐ私に、兄は優しい微笑みを向けてくれていた。

…けれど、兄は、もう。



「……ジェイド?」

頭上から声がして、はっとした。

「…大丈夫か」

「……………」

どうやら私は、いつの間にか瞳に涙を浮かべていたらしい。

ルトが心配そうな顔をして、覗き込んでくる。

「………ううん。少し、思い出しただけ。大丈夫。ありがとう」

軽く涙を拭うと、ルトは「そっか」と言って、前を向いた。


そこで、わぁっと歓声が上がった。

驚いてそちらを見ると、中央でセルシアとロディーが、踊りの挨拶を交わしていた。

…セルシアは、この日のために今まで努力してきた、と言っていた。

ロディーと良い踊りができるよう、今まで稽古に励んできたのだ。

これで、ふたりの距離が縮まることを願う。