月夜の翡翠と貴方



セルシアは「なんでもないの」とか「大丈夫だから」とか必死に伝えようとするが。

全く聞く耳を持たないノワードに、次第に顔が不機嫌に染まりだした。


「少し落ち着きなさい!」


ノワードの動きが、ピタッと止まる。

執事というか、仕える者の性なのか、主人の叱責には素早く反応できるようだ。

「…私は、大丈夫ですから。よもや婚約解消なんて、考えないでちょうだい」

「は……しかし…」

「大丈夫だから、気にしなくていいの!」

「は、はいっ」

背筋が伸びたノワードは、「なにかあったら遠慮なく仰ってくださいね」と控えめに告げた。

そんなノワードに、セルシアは口元に穏やかな笑みを浮かべ、「ええ」と返す。

「今夜の夜会の準備、しっかりよろしくね」

「はい」

ノワードが静かに部屋を出ていくと、セルシアはふぅ、と息をついた。

「全く、ノワードったら…」

呆れた顔をしているが、きっと内心では嬉しいに違いない。

「いい執事さんじゃん」

ルトが笑うと、セルシアは照れ臭そうに「おかげで涙なんて何処かへいきましたわ」と唇を尖らせた。