月夜の翡翠と貴方



レグートの言葉に、ルトはこちらへ来ながらハ、と鼻で笑った。


「ちょっと脅せば、すぐ出してくれたよ。俺が扉を蹴って出るか、そっちが出してくれるか。どちらにしろ扉が開いた瞬間に、お前を殺すよってね」


結局蹴ったけどね、とおどけたルトの口調に、レグートは鋭い目を向けた。

「…で?殺したのかい?」

「いや。右腕の骨をちょっと折っただけ」

「…やるねぇ、お兄さん」

レグートがクク、と笑う。

店内のただならぬ雰囲気に、客がこちらを見て怯えている。


ルト…ルト。

ルトが、知り合いがいるからと言われて下へ行ったのも、全てこのためだったのだ。

矢の挨拶、とレグートは言った。

あの矢は、ルトに向けて放たれたものではなく、私に向けられたものだった。



「………私は、何をすれば良いの」


感情を押し殺した声で、レグートを見上げる。

これ以上、ルトに迷惑をかけるわけにはいかない。

混乱する頭が、踏み込みたくないと言っている。

頭痛が、これ以上昔のことを思い出したくないと叫んでいる。

橙の瞳には、涙が浮かんでいる、けれど。