月夜の翡翠と貴方



どうして。

どうして、その名を………


「マリア。それが、貴女の名だ。違うか?」

「……………」

頭が、思考が、ついていかない。

「マリア」

男の口から、出てくる名。

捨てたはずの、名を。


「マリア・リズパナリ。答えるんだ」


今、呼ばれている。


「マリア」

「………めて…………」

私は眉を寄せ、首を振る。

男が、静かに、まるで私を責めるように、追い詰めるように、名を呼ぶ。

「はっきりと言ってくれ、マリア」

「………やめて…」


「マリア・リズパナリ」


「やめて!!」


しん…………。

私の出した大声に、客が一斉にこちらを向いた。

けれど、私の目には映らない。

忘れたくても忘れられない名前を呼ぶ、この目の前の男しか、映らない。

男はふっと笑うと、荒く息をする私を見据え、静かに「マリア」と呟いた。