…………なんだ?
男は、店の奥へ入る。
埃くさい小部屋に通される。
しかし、その部屋には人間の姿はない。
不審に思っていると、突然後ろでバン!という大きな音がした。
そのあとすぐに、ガチャンという金具が擦れる音がする。
「…!?」
振り返ると、男の姿がない。
扉が、閉められている。
急いで開けようとするが、ガチャガチャという音がするだけで、開かない。
………閉じ込められた…!?
「おい!開けろ!」
バンバンと扉を叩く。
すると、扉の向こうから静かな男の声が聞こえた。
「…気の毒に。貴方は巻き込まれたに過ぎない。あの女の用が終われば、すぐに出して差し上げますよ」
くすりと聞こえた声に、眉をひそめる。
嫌な、予感がする。
「……あの、女……?」
誰のことを言っているんだ。
戸惑う俺に、男はふっと笑った。
「……碧色の、穢れた聖女のことですよ」
*
今、なんと言った?
この男は今、何を口にしたのだ。
何も言えず、呆然と男を見上げる私に、男は益々ニヤニヤと笑った。
「忘れたとは言わせない。貴女の名前だ、マリア・リズパナリ」
二度と口にされるはずのない名前が、男の口から紡がれる。



