月夜の翡翠と貴方



ルトが男について行き、二階から出る。

私は、テラスを含め二階で食事をする客たちを眺めた。

さすがにこの村では、客の数は少ない。

しかし、その分静かなお陰で、叫んだときに一階の彼にも聞こえるのではないかと思った。

あのときは、酒場にいる客が信用できずに叫ぶことをしなかったが、今は客の云々はどうでもいい。


ルトに私の声が届けば、それでいいのだ。


そう思って、バターを塗ったパンを頬張る。

...ルトの知り合い、か。

男だろうか、女だろうか。

ルトは仕事上、顔が広そうだ。


そんなことを考えていると、今度はテラスに若い男がふたり入って来たのに気づいた。

貧相な身なり。

無精髭を生やした図体の大きな男と、ずる賢そうな顔をした細身の男。

何も考えずにそのふたりを見ていると、何故かふたりは私の存在に目を向けた。


その視線に、驚く。

今、私はフードを被っている。

目立つ要素はないというのに、ふたりはこちらへ向かって歩き始めた。

...私の顔に目がいったのか?

しかし、それだけでは売れる価値などないに等しい。

人買いに出される『売りもの』の価値は、『もの珍しさ』で決まる。

私の髪を見ない限り、売りものとしての私の価値など、見出せるはずがないのだ。