月夜の翡翠と貴方



この店は村のなかでもまだ繁盛している方らしく、比較的良い食べ物が用意されていた。

「…とりあえず、明日まではこの村にいなきゃいけないしなぁ」

ルトも外を眺めながら、ぽつりと呟く。


「でも、手当してもらえてよかったね」

「それは本当にそう思うよ」


手当してもらった前と後では、顔色が全く違う。

「あの時私が押し切っとかなきゃ、今頃後悔してたよ」

「はは、どうも」

ルトは、何故私が突然気分が悪くなったのか、声が聞きたい、なんて言ったのかは、訊いてこない。

もうだいぶ気分はよくなったけれど、私にはそれが有難かった。



「すみません」


パンにバターを塗っていると、テラスに若い男が入ってきた。

にこにこと愛想よく笑っている男は、どうやらルトに声をかけたようだった。

「はい」

ルトが不思議そうに返事をすると、男は恭しく不気味なくらいの笑顔で、「私、店の者なのですが」と言った。


「一階のカウンターのほうで、貴方を知り合いだと仰る方がいらっしゃるのです。呼んできて欲しいと言われましたので、一階に来てくださいますか」