月夜の翡翠と貴方



その現実と事実に苦い思いをしながらも、私は素直にルトに甘えた。


.....今、ルトと距離を置くことを考える余裕は、私には、ない。

今だけ。

今だけ、と思いながら。

ルトの戸惑いから目をそらし、気づかないふりをする。






最も鮮明に覚えているのは、

母親の怯えた顔と、父親の理性を失った必死な顔。

人間は、いちばん覚えておきたくないものほど覚えているものだ、と実感する。

優しい声で呼ばれていた名前を、

私は闇のなか、初めて入った奴隷屋のテントのなかで、

静かに憎しみを込めて捨てた。

貴方は、どう思うかな。

穢れにまみれた『私』を、貴方はどう思うのかな。





テラスが良い、という私の希望に、ルトは優しく応じてくれた。

昼食のパンを頬張りながら、テラスから見える景色を眺める。

やはり荒れた荒野のような地面と、ぼうっと前をみているやせ細った青年が、路上に座っているのが見えるだけ。