その現実と事実に苦い思いをしながらも、私は素直にルトに甘えた。
.....今、ルトと距離を置くことを考える余裕は、私には、ない。
今だけ。
今だけ、と思いながら。
ルトの戸惑いから目をそらし、気づかないふりをする。
*
最も鮮明に覚えているのは、
母親の怯えた顔と、父親の理性を失った必死な顔。
人間は、いちばん覚えておきたくないものほど覚えているものだ、と実感する。
優しい声で呼ばれていた名前を、
私は闇のなか、初めて入った奴隷屋のテントのなかで、
静かに憎しみを込めて捨てた。
貴方は、どう思うかな。
穢れにまみれた『私』を、貴方はどう思うのかな。
*
テラスが良い、という私の希望に、ルトは優しく応じてくれた。
昼食のパンを頬張りながら、テラスから見える景色を眺める。
やはり荒れた荒野のような地面と、ぼうっと前をみているやせ細った青年が、路上に座っているのが見えるだけ。



