「どう?その木箱を渡してくれたら、嬢ちゃんにこれ以上傷をつけることなく、遠くへ売り飛ばしてあげるんだけど」
いずれにしろ、私をルトのもとへ返すつもりはないらしい。
.....どいつもこいつも、金のことばかり。
奴隷が当たり前に存在するこの国では、仕方のないことなのかもしれないけれど。
溜息をつきたくなったが、私は何も返事をせずに男を見つめ続けた。
「…いい目をしてるね。売り飛ばされる先は、たぶん貴族んとこだよ。今よりいい生活ができるんだけど、どうかな?」
....そんなこと、身を持って知っている。
貴族に見目を買われた奴隷は、自由と引き換えに裕福な生活を手に入れる。
生きることへの保証がされるのだ。
「…………それは、いいですね」
やっと出てきた私の返事に、男がニヤ、と笑う。
「だろ?どうだい、嬢ちゃん。木箱をこっちに渡してくれよ。そしたら、そのままこっから連れ去ってやるよ」
結局は奴隷も、生きるために買い手を利用しているのだ。
だから、この国で奴隷は絶えない。
欲望に顔をうずめ、誇りさえも捨て、生きるためになら自らをも売る。
…ルト。
やっぱり私は、どうしようもなく汚い人間だ。
「嬢ちゃん、早く」
私は、口元に笑みを浮かべた。
そして、男を真っ直ぐに見つめる。



