月夜の翡翠と貴方



思い出した。

あの日の夜、ルトは私に『汚くない』と言った。

その瞳はすごく優しくて、…それでいて、何処か悲しそうだった。

その、訳が。


「…………………ルト」

苦しげに声を出し、見つめ、ルトを呼ぶ。

優しく、悲しそうな瞳で、彼は私を見下ろす。

その指が、私の頬を伝う。


「ん?」


優しい、声色だった。

ルト、ルト。

もう、心のなかで何度呼んだかわからない。

苦しくて、上手く言葉が出てこない。

でも、何か言わないといけない気がした。

今言わないと、あとで後悔する。

一度大きく息を吸って、口を開いた。


「………ルトは、優しいよ」


そう言うと、ルトは一瞬驚いた顔をした後、ふ、と笑った。

「なんで?」

口元に描かれた弧は、優しい、と言った私の言葉さえ、馬鹿にするように笑った。