月夜の翡翠と貴方



悲しい事に、誰も私の存在を気にもしないのだが。

所在なく立ちすくんでいると、こちらを一心に見てくる視線に気づいた。

そちらを見ると、いたのは上等なジャケットを身にまとった男。

何故か口をぽかんと開けて、こちらを惚けたように見ている。

「…………?」

唯一私の存在に気づいてくれているのは嬉しいのだが、何故何も言わないのだろうか。

私も訝しげに眉を寄せ、見返す。

すると男は、突然ガタッと席を立った。


「君、私の事を覚えているか!?」


え…

男の大声に、酒場の人々の視線がこちらへ集まってきた。

「………」

覚えて、いるか…?

ということは、私はこの男と会ったことがあるのか。

男をじっと見る。