月夜の翡翠と貴方



ルトの事や、彼の身の回りを全く知らない私は、少しばかり身構える。

そんな私を知ってか知らずか、ルトは容赦なく扉を開いていく。

扉につけられたベルが、カランカラン、と小さく鳴った。


「…いらっしゃい」

頭に布を巻き、片目だけを覗かせるあやしげな女が、そう小さく呟くように言った。


...女には、まるで表情がない。

扉から正面の場所に立っているその店員らしき女は、ルトをちら、と見た。


「久しぶり」

ルトが声を掛けると、女は「ああ」とわずかに頷いて、カーテンに包まれた店の奥へと姿を消していった。

「…………………………」

届けられた、手紙とやらを取りにいったのだろうか。

『久しぶり』と言うあたり、やはり友人なのか、と感じる。

しかし、何故あんな怪しげな女と。

隣で呑気に口笛を吹き始めた主人を、そっと見上げた。

改めて、この男は何者なのだろうかと思う。

ルトは微かに口元を上げ、店内を見回していた。

店内はさして広くなく、古いアンティークが壁や棚、至る所に並べられていた。

薄暗い店内に、きらびやかなアンティークが光る。