月夜の翡翠と貴方



「…ごめん」


苦笑いをしながら、謝罪した。

「まぁ…お前をよく見てなかった、俺も悪かったよな」

ふぅ、と息ついて、彼はハハ、と笑う。


...届いた。

あの雑踏で、私の声が届いたのだ。

それが嬉しくて、でもそう思ってしまったことが恥ずかしくて、なんとなく下を向いた。


…なにを考えているんだ、私は。

最近の私はおかしい。

自己嫌悪と似たものを感じていると、ルトが突然立ち止まった。

前を見ると、まるで隠れ家のようにひっそりと佇む、古びた店があった。

「ここ」

その店は路地の通りにすっぽりと埋め込むように建てられていた。

つまり、ここはこの路地の行き止まりである。


茶色のレンガでできた壁によって、中の様子などは外からまるでわからない。

真ん中につけられた扉以外は、窓もついていなかった。


店の外観に驚いていると、ルトは躊躇なく前へ進み始める。

それにも驚きながら、ルトについていった。

...『知り合いの店』と、言っていただろうか。

この店に、彼の知り合いがいるということだ。