月夜の翡翠と貴方



…貴族とこんな風に話すのは、数年ぶりだろうか。


私は立ち上がると、通る人々から視線を浴びていることに気づき、はっとした。

先程ぶつかった弾みに、フードが取れてしまっていたようだ。

フードを被り直すと、急いで辺りを見回す。

立ち止まっていると、通りゆく人々は迷惑そうな顔を向けてきた。


...まずい。

ルトとはぐれてしまった。

ともかく、言われた路地裏の道へ行こう。

そう思い、人波を掻き分けて歩く。

店と、店の間に入る。

人波からは逃れたが、ルトの姿が何処にあるのかさっぱりわからない。

きっと、私を探してくれているのだろうが…

そう思い路地から顔を出すと、人波に逆らって、私を探しているらしいルトの姿が見えた。


「...ルト!」


そうでなくとも騒がしいこの人混みの中で、私の声が聞こえるだろうか。

ルトは一度左右を見回した後、こちらへ振り返った。

そして私と目が合うと、彼は眉を下げ、ほっと息ついたのだった。





「頼むからはぐれるな………」


路地を歩きながら、ルトが深いため息をつく。