…貴族とこんな風に話すのは、数年ぶりだろうか。
私は立ち上がると、通る人々から視線を浴びていることに気づき、はっとした。
先程ぶつかった弾みに、フードが取れてしまっていたようだ。
フードを被り直すと、急いで辺りを見回す。
立ち止まっていると、通りゆく人々は迷惑そうな顔を向けてきた。
...まずい。
ルトとはぐれてしまった。
ともかく、言われた路地裏の道へ行こう。
そう思い、人波を掻き分けて歩く。
店と、店の間に入る。
人波からは逃れたが、ルトの姿が何処にあるのかさっぱりわからない。
きっと、私を探してくれているのだろうが…
そう思い路地から顔を出すと、人波に逆らって、私を探しているらしいルトの姿が見えた。
「...ルト!」
そうでなくとも騒がしいこの人混みの中で、私の声が聞こえるだろうか。
ルトは一度左右を見回した後、こちらへ振り返った。
そして私と目が合うと、彼は眉を下げ、ほっと息ついたのだった。
*
「頼むからはぐれるな………」
路地を歩きながら、ルトが深いため息をつく。



