月夜の翡翠と貴方


途端に、ルトの姿まで見失う。

ぶつかった相手はよろけ、私と共に地面へ崩れ落ちた。


「すみませんっ」


慌てて起き上がり、ぶつかった相手を見る。


「あ、あぁ…すまない」


そう答えた人物は、私と同じくらいの歳の若い男だった。

...貴族だろうか。

歳のわりに、口調が落ち着いている。

見なりも貴族そのものといった様子で、物腰柔らかく、男はこちらを見つめた。

人々が迷惑そうな顔をしながら、私達を避けて歩いて行く。

「…大丈夫か?」

男が立ち上がりながら、こちらへ手を差しのべた。

「あ…はい。ありがとうございます」

その手を取ろうと、手をのばしたところで、男が突然慌て始めた。

何かを探すかのように、下を見回している。

私は足元に落ちていたハンカチに気づき、それを男に差し出した。


「ぶつかってすみません」


すると彼は、少し目尻の下がった整った顔に、驚いたような表情を浮かべた。

そして、ハンカチを受け取る。


「ありがとう。こちらこそすまなかった」


そしてこちらへ一礼した後、去って行った。