月夜の翡翠と貴方



元気良く返事をすると、スジュナは軽快に歩き出す。

「ご機嫌だね?」

スジュナを見下ろしながら、こちらも釣られて微笑んだ。

スジュナも、笑ってこちらを見上げてくる。

そして前を向き、「うん」と言った。


「スジュナが笑ってたら、パパも笑うから」


……だから。

「…だから、スジュナちゃんは笑ってるの?」

「うん」

優しげに笑ったその顔を、私は目を細めて見つめた。

…きっと、空元気ではない。

本当に心から、そう思っているのだろう。

それでも、親を想ってそんなふうに笑える少女を、凄いと思った。


「パパね、さいきん疲れてるの」

色々な話をして歩く途中で、スジュナはそんな言葉を零した。

和らげられたその笑みには、悲しさが含まれている。

「ぼーっとしたり、悲しそうな顔したり、…昨日は、ママの写真見て、泣きそうになってるの見た」

…よく、見ている。

ラサバの疲労の原因は、演劇の準備での多忙さと…ほとんどは、悩んでいるのだろう。

娘の、ことで。


そんな父親のことを、何も知らない幼い娘は心配していた。

「スジュナが笑ったら、パパもちょっとだけ笑ってくれるんだ」

そう言って、ふふ、と嬉しそうに笑う。