「〝徳川家康〟こと〝松平元康〟は桶狭間の戦いにて討死。
俺は使命を果たせなかったんだ。歴史が変わってしまうはずだったんだ。
___だが果心居士はそれを許さなかった。」
松平元康は徳川家康と名乗る前の家康の名前……そんな前から家康はいなかった。
そうとなれば…果心居士が考える事は一つ。
「果心居士は…あなたに家康の運命を背負えと__〝徳川家康〟になれと言った。 そうですね?」
今まで黙ってた私が喋ったためか少し目を見開いた家康だが、静かに頷いた。
「果心居士の正体は一体何なんですか?」
「__果心居士は時代の管理者だ。
時代の管理者は直接歴史に関われない。だから俺の様に別の者と手を組み、正しい歴史を…時代を管理するのだ。」
だから家康のことも私が未来人だってことも知っていた。
今までの果心居士の発言が納得いく。
「俺が〝徳川家康〟になった故に〝意思〟は再び歴史を変えようと動き出した。その度に俺は修正してきたのだ。」
そう言いながらおもむろに立ち上がり、上座の後ろに飾られた太刀を眺める家康。
待って?
私は歴史を変えて違う未来を創ろうとしていた。
今の話を聞く限り、私は家康に対抗する勢力……。
まるで〝意思〟が私を呼んだかのよう__
「……聡いお前なら気付いたんじゃないのか?」
「え…?」
「そうだ。お前は〝意思〟と呼応してこの時代に呼ばれた。
__お前は〝意思〟を生み出した者達の希望なのだ。」
「〝意思〟を生み出した者達の…?」
私はその言葉がどうも引っかかって。
家康に視線を向ける。
家康は私の方へ振り返り私を見つめる。
その瞳の奥は悲しみが広がっていた。


