その時――
誰かが私の手を掴み、ぐっと歩道側に引き寄せた。
だ、誰…?
歩道に倒れ込んだ私は身体を起こし周囲を見回したが、逃げて行くあの黒いキャップの女性以外は誰もいなかった。
でも、確かに私は今、誰かに助けられた…
〈あなただけだから…
あなただけが、みんなの心を救う事が出来るから…〉
誰もいない筈なのに、耳元で囁く様に声がした。
こ、この声は由妃?
いや…
話した事は無いが、私には分かる。
この声は唯だ――
〈本当は誰も悪くない。だから、みんなを救ってあげて欲しい。
お願い…〉
「い、一体どういう意味?」
〈お願い…〉
それからいくら話し掛けても、何の返事もなかった。
唯は一体、私にどうしろと言うのだろう?
私には、何の力も無いというのに…
余りの出来事に、暫くその場でへたり込んでいたが…
信号が3回目の青に変わった時、立ち上がって横断歩道を渡った。
.



