唯は私が駅から来た道を、小走り程のスピードで歩いて行く。
「待って、あなた唯さんでしょ?
少し話を聞かせて貰いたいだけなの」
話し掛けても、全く私の事など無視して返事すらしない。
それでも私は、唯の後ろからずっと声を掛け続けた…
お寺の交差点を右に曲がり暫く進んだ所で、やっと唯が立ち止まって振り返った。
「あなた唯さんでしょ?」
彼女は私を見ると、目に涙を一杯に溜めて今にも泣き出しそうな表情をした。
「……削除されるんですか?」
「え?」
「削除されるんですか?」
私には彼女の言っている意味が、全く分からなかった。
「一体、何の事を言っているのか全く分からないのだけど…
あなた唯さんでしょ?」
私の問いに、彼女は俯きながら大きく首を横に振った。
「私は由衣の双子の姉…由妃です」
「由妃…さん?」
人違い…
私は唯と間違えて、双子の姉を追い掛けていたんだ。
どうりで、私が追い掛けると逃げるはずだ。きっと私はかなり危ない人に思えただろうな…
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