白線から決して出てはいけない。黒い部分は落とし穴で、どこまでもどこまでも落ちてしまう――。

 ――そりゃあ、あたしだってもう十歳だもん。信じてないけど……。

 落ちるわけがない。わかっていても、白線を渡ってしまう。

 ――渡れたことないんだけどね……。

 いつも、横断歩道の真ん中辺りで落ちてしまって、渡れたためしがない。

「もう高学年だし……渡れるかな」

 時刻は遅刻ぎりぎり。だが、そのおかげで周りに人はいないし、心置きなくチャレンジできそうだ。

 信号機は青。車も来ない。助走を付けて跳んだ――

「おっと」

 ランドセルの重みで後ろに倒れそうになる。
 なんとか耐えて、次の白線に跳ぶ。

「よっ――はっ――とっ……とととっ?!」

 体がぐらりっと後ろに傾いて、思わず黒い部分に足をつい……て?

「え――」

 足はどこにも触れず、真っ黒い空間に落ちていく――

「えええぇぇえ――!?」