「じゃあね」
「あっ……」
それだけ言って、遠ざかっていく後ろ姿。
……何も聞くことができなかった。
なぜ、ここに居たのか……
なぜ、あたしに話しかけてきたのか……
……あなたが誰なのか。
何一つ、聞くことができなかった―……
―――――――――――――……
「おはよぉ~、桃香ぁ」
あの出来事はまるでウソだったかのように、またいつもの日常が始まった。
「あれぇ?なんか元気ない~~?」
「おはよ、美樹」
「篤志君とケンカでもしたぁ?」
クリンとした瞳が少し不安そうに揺れながら、あたしを見つめる。
「違うよ。ケンカなんてしてない」
「そう~?何かあったら相談してねぇ?」
美樹は、あたしの変化を見逃さない友人だ。
へらへらしている様に見えるけど、きっとすごく冴えている子だと、あたしは思う。
「それで、美樹の方はどうなったのよ?」
「あ~!そうなのぉ!!ちょっと聞いてよぉ~~」



