「俺がやる」

「でも、わたしが」

「おまえの気持ちありがてえが、やめとけ」

「………」


指を切ってもマズイだろ。

エプロンをして振り向いた目には必死で隠そうとして歪んだ涙が見えた。


「わかった。大人しく座ってる」

ぐし。
俺の言葉に傷ついた女は隠れて袖で目を擦った。


「おい」

「………」

「おい、」


名前がない女を呼べない。

「おい、」

「………」



ソファーに寂しそうに縮こまり座る女を呼ぶが振り向かない。



「おい、」


言い過ぎたのか。
でも、どうしていいかもわからねえ。


と。

頭を抱えた時、

開け放した窓から桜吹雪が舞い込んだ。


「……さくら」


「え?」


見事な桜の木。
若と暮らすようになった時に記念にと、桜の木を留恵さんが植えた。

留恵さんが、

「この桜は昇り龍みたいな仁そっくりね」

と、話してくれたことを思い出した。


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