―…


最寄り駅に着き、あたし達は電車を降りた。

啓ちゃんはまだ夢心地で、目を擦っている。



改札を出て、階段を下りながら、あたしは聞いた。



「それにしても、その手、困るねぇ。包丁とか使えないよね」

「う~ん。でも、何とかなるよ!」



何を根拠にその笑顔?



「う~…そっかぁ…でもなぁ…」



あたしは想像した。

ぎこちない左手で包丁なんか使ったら…?



こう、ざくっと…!

いや~!それはアカ~ン!!



「いやいやいや!やっぱダメ、危ない!」

「大~丈夫だって。こっちの手もあるんだし」




啓ちゃんは左手をしゃきーんっと目の前に出してきた。

そしてへらっと笑う。



あたしは、それを振り払って言い通す。



「左手なんか、余計に危ないから!啓ちゃん右利きでしょ」

「そうだけど…でも、へーキだと思……」

「だーめっ!今日はあたしがご飯作るよ!」





すると啓ちゃんが目を輝かせ、しっぽを振った(ないけど)。