魔王に甘いくちづけを【完】




“・・ュ・・ァ”


・・・・・・?


気のせい?・・誰かの声が聞こえる。



“・・ュ・・ァ”



ううん、気のせいじゃないわ。


さっきの声とは違う声。


静かで優しくて、どこかで聞いたことのある、それ。


とても落ち着く声色。


これ、私、知っているわ。





“ユリア・・こっちだ・・・”





はっきりと耳に届いた声、弾けるように顔を上げ、目を開けた。


閉じてても、開いても、さほど明度の変わらない闇の中をキョロキョロと見廻す。





どこから聞こえてくるの?




貴方は私を助けてくれる?






恐怖と闘いながら、立ち上がって歩き始めた。


何処をどう歩いているのか、まるで分からない。



でも、遥か向こうに微かに光る小さな灯が見える。

とても小さいけれど、あたたかな光。



あそこに行けば・・・。



ユリアは誘われるようにそれに向かって足を運んだ。




“ユリア・・・こっちだ・・・何処にいる・・・戻ってこい”




―――途切れ途切れに聞こえるこの声。


やっぱり・・・貴方なの・・・。