魔王に甘いくちづけを【完】

“・・・・ィナ”



―――誰・・・誰なの?


僅かに耳に届く声。


うずくまっていたユリアは、ハッとしたように顔を上げ、声の主を探した。

右も左も上も下も分からない漆黒の闇の中。

それは、何処からともなく聞こえてくる。



ここはどこなの――?

私、どうしてこんなところにいるの・・・

あなたは誰?




“・・ス・・ナ”



また聞こえる・・・。

まるで地の底から響くような、重くて恐ろしい声。

微かに耳に届くそれは、何だか苦しそうで切なそうで、それでいて、とても優しい。

貴方は私に用があるの?



“ど・・に・・・いる・・”



―――何て言ってるの?

ごめんなさい、分からないわ・・分からないの。

声が、とても、遠い―――





・・・・手探りで暗闇を彷徨い歩くユリア。

脱け出したくても、どちらに進んでいいのか全くわからない。

どこまでも続く漆黒の闇。

さっきまで聞こえていた声もなくなり、静寂な空間の中に一人取り残され、どんどん不安になっていく。




――私はここから出られるのかしら。

それともこれは夢の中なの?

怖い・・・誰か。お願い、助けて―――




永遠に続くかのような闇、自分の体がどこにあるのかも分からない。

あまりの恐怖に心が潰れそうになる。

その場に蹲って目を閉じて、自らの体を抱きしめた。




「ラヴル、助けて」



声に出すと切なさが湧いてくる。

怖いと思うと、真っ先に浮かぶラヴルの顔。


でもきっと貴方は、私がこんなところにいることを、知らない。



助けて貰えるはずがない。



ユリアは、恐怖から逃れようと、掌で顔を覆った。