魔王に甘いくちづけを【完】

ユリアは部屋の中でソファに座りぼんやりとしていた。

ラヴルが帰って来てから、もう随分と時間が経っている。

接客で忙しいのか、一度も顔を見せに来ない。



女性のお客様、一体どんな方なのかしら。

気にしたくなくても、気になってしまう。


この感情は、きっと、蓋をするべきものなんだわ。

でないと、きっと切なくて苦しい想いをすることになる。

ユリアにとってラヴルとの関係は、あくまでも買い主と買われた者としか思っていない。。

ラヴルからの愛情を感じることは沢山あるが、それがいつまでも続くとはとても思えなかった。



――コンコン・・・


時折風が吹き込む静かな部屋の中に、不意に響いたノック音。


ラヴルが来たのかしら、もう接客は終わったのかしら。



無音を貫く部屋のドア。

いつもすぐに入ってくるのに、そんな気配が全く無い。



「?・・・どうぞ?」


声をかけるも、誰も入ってこない。


いつも、音がしたなぁって思うと、ツバキの声と一緒にすかさずドアが開けられるのに。こんなことは初めてだわ・・・

誰かしら。なんだか少し怖い。



「―――誰、・・・誰なの?」



恐る恐るドアに近付き、耳を当てて様子をうかがってみた。

やっぱり何の物音もしないし、廊下には誰もいる気配が無い。


―――気のせいだったのかしら。



・・・カサッ・・・



戻ろうとする足先に、それは触れた。

静かな部屋の中でなければ聞き逃すような微かな音。

ドアの隙間から差し入れられた白い四角いもの。



――これ、何かしら・・・。

何か書いてあるけど、読めないわ。

え・・・っと・・・??

封がされてるけれど、ここに入れられたということは、私宛の何か、よね。

どうしようかしら。



ここは結界の張られたラヴルの屋敷。

他者を排除する空間の中で、こんなことが起きるなんて、不思議で不気味。

一体誰が差し入れていったのか。

ユリアは手の中のものをじっと見つめた。