魔王に甘いくちづけを【完】

セラヴィは哀しげに呟くと娘の体を丁寧にシーツで覆い、ドアに向かって声を上げた。



「ハッカはいるか」


「はい、セラヴィ様。ここに・・・」


「いつものように丁重に頼む」


「畏まりました」



娘の体を丁寧にハッカに渡すと、セラヴィは瞳を閉じた。

体の内には力が漲り、どんどん気が昂っていく。



崩壊寸前の体。

それでも国一番の力を持つ歴代最強の王セラヴィ。

正妻を迎えてまともに国を治めていれば、この先1000年は安泰と言われていた。


不運が続き未だ正妻を迎えられず、力はどんどん失われていく。

契約のない体から貰った、付け焼刃だが貴重な命の力。


心優しいセラヴィは、弔いと礼の気持ちを込めながら、夜の国に力を注ぎこむ。



首都ケルンから名もない国境の村、草木の一本まで力をいきわたらせる。

淀んだ半月が徐々に澄んだ輝きを増し、まばらだった星が満天の煌きに変わっていく。

しおれかけていた花が瑞々しさを取り戻し、濁った川の水が透明度を取り戻す。

月の灯りにキラキラと水面が輝き、魚がぴちょんと跳ねあがった。

ラヴルに任せたルミナの街と、ゾルグに任せたナルタの街は除き、セラヴィの力が、国を、国土を安定させていく。


国作り。これがこの国の王の大切な仕事の一つ。


新しい国土を作るのも、消すのも王の心一つ。


今夜は月に一度の大きな力を使う日。




「ふむ・・・これで暫くはいいだろう」


パートナーさえいれば、こんなことはしなくても良いのだがな。


私にはもう時間が無い。


閉じた瞳の中に、ストレートの黒髪を靡かせて走り寄る娘の姿が浮かぶ。


眩しいほどに降り注ぐ光りの中で、過ごした日々。

しっかりと愛をはぐくみ、婚儀も寸前であったのに・・・。