魔王に甘いくちづけを【完】

“分かったよっ。誓えばいいんだろっ!?”


血が滲みでている口の端を手で拭い、ライキはラヴルの脚元に跪く。


ライキは鬼の子。

素手の戦いにおいては最強を誇る鬼一族。

子供とはいえ、ライキは仲間からも“乱暴者のライキ”と恐れられるくらいに強かった。

ラヴル属する吸血一族といえども、力を使わなければ到底敵うものではない。

その鬼のライキに、ラヴルは素手で勝ってみせた。



木の根元に体を預ける傷だらけの体。

そんなライキを見下ろしているのは、まだ若きラヴル。

少なからず傷を負い、身に纏う服もあちこち破れてはいたが、漆黒の瞳を妖しく輝かせ、ライキと真摯に向き合っていた。



あの頃はまだ子供だったライキ。

あれからもう10年以上経っている。

正直、素手のラヴルには勝てるほどに成長している。

だが、ライキは今更闘いを挑もうとは思っていない。

このまま一生ラヴルに仕えようと思っている。





――あの時だ。あの日、この俺はラヴル様に忠誠を誓ったんだ。

体中傷だらけになって、普通はカッコ悪いはずなのに、この俺を見る表情は威厳がたっぷりで、俺にはとてもカッコ良く見えた。

この人にはとても敵わねぇと思った。

俺、今は強いからな。

もしかしたらラヴル様に勝てるかもしれねぇ。

でも、俺、ラヴル様を尊敬してるんだ。

だからもうあの約束は、今更なことだ――





「ねぇ、ライキ。その、持ってるのはどうするの?どこかに埋めてあげるの?」


「あぁ・・これかぁ?これはな、こうするんだぞ―――こっちに来いっ!ヴィーラ!」


ライキは手に持っているうちの一匹を、空高く放り投げた。

屋敷の屋根を超えて上がったそれを、何処からともなくやってきたヴィーラの前足がワッシと掴み、ワッサワッサと翼をはばたかせながら悠然と下に降りてきた。

玄関前の広場に降り立ち、小動物を口の中に放りこみ、バリバリと音を立てて飲み込んだ。

いつものことなのか、もう一匹が投げられるのをそのまま待っている。

ライキがそこにめがけてもう一匹を投げると、ぱくんと口の中に入れてこれまた美味しそうにごくりと飲み込んだ。



「あれはなぁ、ヴィーラの餌なんだぞ。この俺が毎朝捕まえてきて、こうしてやるんだ。なんてたってラヴル様に頼まれてるからな。大事な仕事だ」


食べ終わったヴィーラの顎のあたりをライキが指でくすぐると、ヴィーラは気持ちよさそうに目を閉じた。