魔王に甘いくちづけを【完】

強引でいつも有無を言わせないのだが、珍しく了解を取ろうとしていた。

ユリアの返事を待つように鏡の中を見つめている。


しかし、それも束の間のこと。

元来の性格はそうそう変えられるものではない。


すぐにラヴルは櫛を置き、どういうことか分からず戸惑っている様子のユリアを後ろから抱き締めた。


耳にそっと口づけをして


「ユリアの血を貰うぞ?」


と囁くと体がビクッと震えて少し堅くなった。



「待って・・あの、今――?」


「あぁ、そうだ。ユリア、そう緊張するな」


ユリアは血を吸われると、自分がどういう状態になるかもう分かっている。

体の芯から蕩けるような恍惚感に襲われる。

さすがに朝からそんな状態になりたくない。

そう思ったのか、ユリアはラヴルの腕の中から逃れようとし始めた。


逃げないようにがしっと頭を包み込み、額に掌を当て、指先で首筋を撫で始めた。

こうするとユリアの固くなっていた体が少しずつ解れていく。

本当は抱いた後の方が力のある血が貰えるが、生憎今は時間が無い。


ユリアの体の力が抜けた事を確認し、頭部を支え、白い首筋に唇を乗せた。

牙を立てると体がぴくっと震え、徐々にぐったりとし出し腕の中に体が預けられていく。

愛らしく頬を染め、唇からは吐息が漏れ始めた。

同時にラヴルの体に力が漲っていく。


昨日失っていた力は一晩寝て戻ってはいるが、どうしたって昼間のラヴルは夜よりも、弱い。

他の者も少しは力が弱まるが、ラヴルは飛びぬけて夜と昼の力に差があった。

唇を離し、ぐったりとした体をしっかり支えたまま屋敷の外に気を向けた。




屋敷を囲む空間がぐにゃりと歪み、庭の草木が揺れてさわさわと音を立てた。

屋敷の上の中心空高くから、外と中をすっぱりと切り離すように、見えない膜が球状にスーッと降りてくる。

数秒の間に昨夜よりも強固な結界が張られ、日の光に当たって一瞬キラリと光った。

空を飛んでいた大きな鳥が膜に弾かれ大きく方向転換をし、屋敷の中を窺うように見ていた黒い影達もビリっとした結界に触れ、悔しげに唇を噛んだ。

結界の近くにいるだけでやけどしそうになる。

影が一つ減り、二つ減り、ラヴルが最初に確認した影は最早一つもない。

それを確認すると、ラヴルはホッと一息を漏らした。



「うむ・・・これで少しはもつだろう」



ラヴルは血が滲みでている白い肌に口づけをし、何度か指でなぞって傷口を塞いだ。

触れるたびにユリアの体がぴくっと動く。

可愛らしい反応を示す、初々しい色香を放つ甘い体。


時間が無いというのに、このままベッドに運んで抱きしめたい衝動にかられる。