「無いものは、省くぞ、いいな」


そう言ったゾルグが祝詞を謳い上げたあと、誓いの印を要求した。



「シエルリーヌ・リラ・カフカ。そなたを我が妃とし、我が愛を注ぎ守ることを誓う。今ここで我が妻となる証、新しき名を与える。これを、真名と致せ・・・」



肩に手が乗せられて額に唇が落とされる。

耳元でラヴルの声がした。


・・・ユリアナ・・・


告げられた瞬間、体の芯がぽっと火が点ったように熱くなった。

心が高揚して、奥底から力が湧きあがってくるのを感じる。

どんどん溜まっていって、どうにも発散したくて堪らなくなる。

セラヴィの時には無かった現象、これを、どう処理したらいいのか―――


「―――ラヴル・・・あの・・・」


もじもじしながら見上げると、ラヴルは妖艶に微笑んだ。


「・・・静かに。もう少しの、我慢だ」

「はい・・・」



ゾルグが咳払いをして続けるぞ、と言って戴冠の儀を促した。

祭壇の上の光り輝くティアラが、ラヴルの手によって頭の上に乗せられた。



「―――ユリアナ、そなたをロゥヴェルの王妃に任命する―――」



「では、護国の儀を―――二人とも、こちらへ」



ひたすらに「急げ、早く」と言うゾルグに誘導されて、祭壇の奥に足を踏み入れる。

そこには簡素な石の器が祀られていた。

ゾルグは案内しただけで、静かにその場から立ち去っていく。

私の手を握ったラヴルが真摯な瞳を向けてきた。


「少し、痛いが。いいな、我慢だ」

「え・・・?」


・・ぴっ・・


指先がラヴルの爪で傷付けられる。

血が滲みでて小さな血の球を作った。

見れば、ラヴルの指先からも同じ様に血が出ている。



「ユリアナ、貴女を、愛してる。子供のころより、ずっと。貴女を手に入れるこの日を、ずっと、待っていた――――――取れ。私の、この手を――――――」



さし出されるラヴルの手をそっと握ると、強く握り返してくれた。



「はい―――私も、ラヴルを愛しています。お迎えに来て下さるのを、ずっと、待っていました」