魔王に甘いくちづけを【完】

ラヴルの指が優しく首筋を撫でてる・・・。

撫でる度にチクチクした痛みが消えていくのが分かる。

体の奥が熱いままそっと触れられて、その指遣いにゾクッとして体が少し震えてしまった。


――私、今ラヴルに血を吸われたんだわ。

ただ傍にいればいいって、こういうことなの?

ただ、血を吸うためだけに私を買ったの?

だから、沢山食べろって、体力をつけるようにって、ナーダはいつも言ってたのね・・・。

オークションでラヴルに買われて、私には記憶がなくて、何処にも行くところがなくて・・・。

私はラヴルの傍にいるしかないけれど。


ラヴルは私が必要ではなくて、私の血が必要なだけだったのね・・・。



求められているのは私ではなくて、血・・・。




とても哀しくなって、無言のままラヴルの瞳をぼんやりと見つめていた。

見下ろしているラヴルの顔が、どんどん滲んで見えなくなっていく。

そんな私の心を見透かしたように、ラヴルがいつもと同じ静かな声で言った。



「言っておくが、このためだけに、わざわざ1000もの大金を出してユリアを手に入れた訳ではないぞ。ただ血を吸うだけなら、ユリアでなくても誰でもいい。そこを勘違いするな」


「え・・・?じゃぁ、何のために?」


「・・・ユリアには難しい話だ。知る必要はない・・・それより、泣くなユリア・・・。血を吸う私が怖くなったか?私から逃げたいか?」



指先で瞳から溢れた涙を拭うラヴル。

その見下ろしてる漆黒の瞳が、少し切なげに揺れているように見える。



――どうして?


私が泣いているから?


それとも、私がどう答えるのか不安なの?



でも、そんなはずはないわ。

私が泣いてても、答えがどうであっても、ラヴルはきっと何とも思わない。


強引で、私の気持ちなんてお構いなしなのに。



今更そんな瞳で、見ないで・・・。



今更、そんな顔しないで・・・。