・・・―――大地の鼓動が、弱い―――


我が体に伝わりくる小刻みな大地の震え。

失われていく国土の欠片は大きさも頻度も増した。

空も、暗く、今朝より薄墨色の冷たい雲がロゥヴェルの空を覆っている。

膝元ケルンにはまだ日が射し青空があるが、他の地には雲が広がり凍てつくような寒さに襲われていることだろう。

日の力は弱まりつづけ、国の気温は下がる一方だ。

城の中まで冷たく沈んだ空気に満ちている。


即位してより今日まで何とか誤魔化し続けてきたが、やはり限界なのだ。

作り物の空と大地。

千年以上もの時を魔王が守り保ち続いたこの世界。

私の代で潰すわけにはいかん。

だが、長い時の中で黒髪の濃き血と破魔の力なき時代が先の世を含めば四代続いていたのも事実。

薄まった血の加護。

僅かな大地の胎動を感じ取り、崩壊を訴えれば父である時の魔王はこう言った。



“大丈夫だ、感じぬ。滅多なことを言うものではない、幼き王子は黙っておれ”



と。時の大臣どもも“幼き戯言”と誰もが目を背け瞑っていた。

誰も耳を傾けん中、幼い私は感じていたのだ。

大地が、空が、悲鳴をあげていることを――――――


人の妃に拘り続けた本当の理由の根源は、ここにある。

誰も知らん。知らせるつもりもなかった。

時が、迫ってくる。

急がねばならんが・・・我が妃と決めた愛するクリスティナの心のうちは、ティアラの部屋の後に少しは変化したのだろうか。

戻って来た時の表情は、今までになく明るいものに見えたが――――――・・・




思考から離れ診察する御殿医の顔を見れば、唇を引き結び難しい表情を作っていた。



「何だ、ルルカ。隠さず言え」


そう尋ねれば、顔つきはますます曇ったものになる。



「セラヴィ様、薬湯はきちんと飲まれておりますか」

「当然だ。貴様の指示通りだぞ」

「左様で御座いますか・・・」



随分と暗い声を出す。

やはり、感じていた通り病は進んでいるのだろう。

崩壊は早まったということか―――



「っ、ですから、セラヴィ様。先ほどから申し上げているではありませんか。すぐにでも若い血を―――」


横から口を挟んだ大臣を一睨みで制するも、その態度は怯む様子がない。



「貴様は、くどい。命の捧げは要らんと言っている」



真っ直ぐに向けられる真剣な2つの瞳と刻まれた深き皺。

この大臣は相当の覚悟を持ってこの部屋を訪れたのだろう。

何度要らんと言っても断固として食い下がってくる。

命を捨てる覚悟があるのだろうな。