魔王に甘いくちづけを【完】

「考えてなかったか。魔の王も甘く見られたものだ――――求めるのは、当然だろう。それにより我が力が尽きるかもしれんのだ。魔獣どもや同族の食が奪われることにもなる。ゆえに、私は王として、世界の創始者として、反対派に命を狙われるだろう。損になりこそすれ、得になることなど何一つない。そんなことに私が力を尽くすと思うのか」



魔側からすれば、当然と言えばそのとおりの要求だ。

吸血族の王とは言え、絶対的な力を持っているわけではないのだ。

反乱が起こることは必至だろう。


人側としては、薄々感じてはいたがこれまでの犠牲の多さから考えれば、魔側の言うことは理不尽に思うのだろう。


真っ向から対立しそうな雰囲気が両者の間にながれる。



「返事は今すぐには無理だ。協議し改めて提案をする」


「その必要はない。すでに欲しいものは決めてあるのだ。そちらからの提案を少しでも待った私を、貴方がたは評価すべきだな」



ぎらつく目を細めて薄い微笑みを浮かべた魔の王は、部屋の隅を見やった。

そこには、不安げに成り行きを見守るティアラの姿がある。



「何を―――!?っ、まさか、そのために同席を求めたのか!?―――だが、それだけは、止めていただきたい!別のものを」

「駄目だ、こればかりは譲れん―――人の王よ。そなたの大事な娘、そこに居られる黒髪の巫女姫をいただこう。さすれば、願いを叶えよう。断れば、この話は、無に、帰す――――」



低い声で一語一語をはっきりと区切って強調した魔の王に対し、人の王は早口で捲したてた。



「巫女姫は破魔だけでなく、天候の予見もなさるのだ。奪われれば、人の世にとって大変な損失になるのだぞ」


「農の民が困るぞ」

「漁の民もだ」



大臣達が口々に加勢をするが、吸血族、魔の王にとってはどうでもいいことなのだろう。

表情を崩さずに部屋の隅を見たまま無言を貫いている。



「――――私は!」



ティアラの声は部屋の中に凛と響き、騒然としていた人側を静まらせるには、十分な力を持っていた。



「私の意を、聞いて下さい」

「・・・ティアラ、そなたは何も心配しなくて良いのだぞ」



人の王が父である顔をのぞかせる。

悪いようにはしない、姫は発言するなと窘めるように言うのを、でも・・と言ってティアラが反抗している。

大臣たちも加わり、寄ってたかって

「会議の場だ」

「女性は発言するな」

と窘められ、ティアラはとうとう俯いて黙ってしまった。




「・・・待て。私が聞こう、黒髪の巫女姫ティアラ、貴女は、どうしたい」