魔王に甘いくちづけを【完】

――――・・・まぁ。先程から心騒がしいと思えば・・・。
幾年ぶりでしょうか。ここに、再び黒髪の姫が訪れるとは・・・――――


「―――――誰!?」


頭の中に直接響いてくるような、柔らかく綺麗な女性の声。

どこから聞こえてくるのか。



―――・・・ヒインコ・・あなたは以前も泉に訪れていましたね。そうですか、あなたがここに連れて来たのですね。良く、やってくれました・・・―――



ヒインコが囀りながら、泉の上を飛び回る。

嬉しそうにも見えるけれど、フラフラする飛びかたは、予想外のことに慌ててるようにも感じる。

急に方向転換をして急いでこちらに戻ってきたかと思えば、再びポケットの中にもぞもぞともぐりこんでしまった。

入口に嘴だけがひょっこりと出ていて、怖いもの見たさの感情がヒインコにもあるのかと思い、少し心が和んだ。



「怖いのね?そこに隠れていればいいわ」



今までのことで耐性が出来ているのか、歴代妃が経験したことだからと安心しているのか。

自分でも驚くほどに動じていなければ、怖くも感じない。


泉の真ん中にさざ波がたち、小さな光の球がふわりと現れて水面の上でとどまった。

それを中心として、ぼやぼやと人の形ができあがっていく。

白い衣に長い髪。

細く美しい手が胸の前で組まれ、俯きがちだった顔がゆっくりと正面に向けられた。


水面を滑るようにこちらに近づいてくる。



「貴女は・・誰なのですか・・・」



人、ではないように思える。

白く輝いていたその姿は光を失って行き、色がだんだんに現れてきた。

髪は黒、瞳も黒、衣だけは変わらずに白かった。


この方は、吸血族の精霊なのかしら。


「この姿を取ることは、もう二度とないと思っていました。私は、ティアラ。この世界を創造した初代魔王の妃であり、今はこの創始の森の番人をしています。この国の民は、ここを『瑠璃の森』私のことを『森の意思』と呼びます。黒髪の姫、貴女の、名は?」



―――美しいお方。

貴女が、ティアラ。

あの不思議な部屋の主。

バルが話してくれた、最初の黒髪の姫。

本物、なの――――?


こんなところで、こんな形で会えるなんて信じられない。

それに、どうして、この森の番を?


・・っ!


というか、待って?

ここは瑠璃の森―――!?



遅ればせながら、目を瞠ってきょろきょろしてしまう。

頭の中がごちゃごちゃになる。


何故、ティアラの部屋が、ラッツィオの森に繋がってるのか。


ということは。

ここのどこかにフレアさんがいるということで。

私は今、ラッツィオに戻ってきてるということで―――――?