魔王に甘いくちづけを【完】

目線を合わせて話しかけると、翼まで広げて嬉しげに囀る。

一息ついておさまったところを見計らって、肩にとまらせて歩き始めた。

紅い羽がチラチラ目の端に映って何とも心和んで気持も強くなる。

暫く歩いていると、何かに反応したように一声の囀りを残し、バタバタと飛び立った。

止める間もなく、すぃーと前方に飛んで行ってしまう。

見失わないように急いで歩くけれど、この脚は思い通りに速く動いてくれない。

紅い塊は粒のようになって、じきに視界から消えてしまった。



「戻って来てくれるかしら・・・」


ポツリ呟いた声が風に流される。

風に揺れてざわめく木々の音がやけに大きく聞こえて、孤独感を増す。


なんとか追いつこうと懸命に脚を動かしていると、前方から囀る声が聞こえてきて、紅い粒が見えた。

それが徐々に大きくなってきて、やがて肩の上にふわりととまった。


見てきた何かを報告するように、囀り続けている。

それが何だかとっても嬉し気に聞こえるのは、気のせいかしら。



「あなたは何を見つけたの?このまま真っ直ぐに進めばいいのね?」


真っ直ぐといっても、獣道すらないのだけれど―――


そんな不安はすぐに払拭された。

少しでも進む方向が歪めば、ヒインコの羽がぱしんと頬を撫でて修正される。

まるで案内係のよう。


やがて、進む先に大きな岩が見え始めた。

それは木漏れ日を受けて、きらきらと瑠璃色に光って見える。


「あの岩は――――」


瑠璃の森の道に点在していたものによく似ている。

とても大きいそれは、何かを囲むように弧を描いて、目の前にそびえたっていた。



「あなたが見つけた物ってコレなの?」


肩から飛び立ち誘導するように前を行くヒインコの後をついていくと、人一人が通れるほどの隙間を見つけた。


向こうから水音が聞こえてくる。

ぱたぱたと前を飛ぶヒインコと一緒に岩の間を抜けると、そこは―――

瑠璃色の光に満たされていた―――


木陰さえも瑠璃色に染まっている。

岩に囲まれた大きなくぼみに水が流れ込み、小さな泉を作っていた。

碧く見える水は、きっと岩肌の影響だろうと思える。


ふと思い立ち、脇の低めな岩によいせと登り向こうを覗き見ると、申し訳程度の土に生える木の向こうは、他を拒絶するかのような断崖絶壁だった。

うっかり落ちれば怪我どころか命がなさそうな高さだ。

あまりの恐さに腰を抜かしそうになりながらも、そろりそろりと後退りをしてなんとか元に戻った。


ホッとしつつも泉に目をやれば、上を飛び回るヒインコの紅と瑠璃色が相俟ってとても美しく、神聖な場所に見えた。

許された者しか訪れることが出来ないような。