魔王に甘いくちづけを【完】

・・・えっと、どっちに進めばいいのかしら?

というか、道らしきものがないから、このまま下手に歩き回ったら迷子になってしまいそう。

そもそも、ここがセラヴィの造る世界と同じだとは限らないのだ。

あの全く預かり知らない風情、別物な世界の可能性の方が強い。

同じ世界なら、目的は果たせなくても歩き続ければ街中にでられるかもしれないし、ルミナにだって行けるかも。


けれど異界なら・・もし帰れなくなったら・・・。

心の中がぞわぞわと湧き上がった不安に支配される。



「そういえば。出てきた場所は、わかるのかしら」



と、あるべきところの辺りを見て、愕然とした

。声にならない息が出て、へなへなと座り込まなかった自分を褒めたいくらいの強い衝撃を受けた。

そこだけが、きらきら光ってたり、不自然な緑色の塊があったりするかと思い描いていたものが、無い。

門があった痕跡の欠片さえ、皆無だ。

後ろも横も前も、果てしない森が広がる。



「・・嘘つき。すぐに戻れないじゃない・・・」



力ない声が出る。

これは、何か目的を果たすまでは帰れないってことよね、きっと。


でも、何をすればいいの?

歴代の妃の方々ったら、どうして何も残して下さらなかったのかしら。

私が無事戻ることが出来たら、絶対に何かを残すことにするわ。

歩いた道筋とか、したこととか、出会った生き物とか。


どうせ何もすることがなくて暇なんだもの。

あれこれ全部、絵まで描いて、書き残しておくんだから。

戻れれば、だけど―――


取り合えず、宛はないけど進まなくちゃ、いつまでたっても終わらない。

散らばってしまった勇気と力を脚に集めて一歩を踏み出すと、突然にスカートの中がモゾモゾ蠢き始め、ふわふわと裾が浮き上がった。


卵から出る雛のように、ポケットからぴょこっと嘴がのぞく。



「あ、出てはダメよ。迷子になるわ」



制した手をくぐり抜け、綺麗な囀りをしながら飛んでいく。


「戻っておいで」


頭上を旋廻するように飛び回るヒインコに腕を伸ばして手招きをすると、囀りながら戻ってきて手首にとまってくれた。

そこでも、丸い瞳をキラキラさせながら囀りつづける。



―――そういえば、このコがいるんだったっけ。



不安だらけだった心が一気に和やかになっていく。

肩の力も抜けて笑顔も出てきた。



「お喋りさんね?セラヴィが傍にいる間、ずっとポケットの中で窮屈だったのね?」