魔王に甘いくちづけを【完】

歴代の人の妃たちは皆、夫である魔王を愛していたのかしら。

人の世を守るため、贄として育てられて。

これが宿命だと、仕方なくこの世界に嫁いできたのかしら。

あなたたちは幸せだった?

私は、どうすればいい?

この先に行けば、答えが見つかるかしら。



「特に、人の妃に関しては残された文献も少ない。この部屋のことも必要最小限の“人の妃が訪れる場”としか情報がない。―――この先は、共に行くことが出来ん。私はここで待たねばならん。・・・貴女は脚が弱い。遠いばかりの道が続けば辛いだろう。そのときは、すぐに戻って来い」



・・・門、というには、おぼろげな輪郭。

本当に、通り抜けることが出来るのかと心配になるほどに、色が変わってるだけの堅い壁のように見える。


そこの前まで背中を押されるままにソロソロと進み、恐る恐る手を伸ばして壁に触れてみると、何の抵抗もなく指先が壁を通り抜けた。

ぬめっとした感覚もない。

意を決し息を大きく吸い込んで踏み出そうとしたら、急に、セラヴィの腕がお腹にまわってきて、くいっと部屋の方に引き戻される。


「・・え?」


背中を押してきたのは貴方なのに―――


振り返り見上げれば、セラヴィは門ではなく、何事かを言いたげな表情でこちらをじっと見つめていた。


「何ですか?」

「む・・・やはり無理だ、止めよ」

「いいえ、無理ではありません。大丈夫です・・・待つ間、貴方は暇でしょう?このお部屋の塵を掃ってると良いわ。私が戻るまでに、ティアラの部屋という美しい名前に相応しいものにしてて下さい」



不思議な力も使えないと言ったこのお部屋の中。

たまには汗を流して働いてみればいいわ。

そうすれば、力ないヒトや私の立場も少しは理解できるでしょう。



「言っておきますけれど、使用人に命じてはダメです。貴方が、して下さい」



瞳に思いを込めて、貴方が、の部分には力を込めて言うと、セラヴィは「ふむ・・」と呟きつつ眉根を寄せて部屋の中を見廻した。

どうやってお掃除するか、方法を考えてるのかもしれない。

お腹にある腕の力が弱まった機会を逃さずに押し避けて、すかさず「行ってきます」と言った勢いそのままに、素早く門を潜りぬけた。





ふわり・・と暖かな空気に包まれる。

木立の隙間からもれる光が、連なる幾何学的な模様を空に描く。


―――ここは、森?


足下は草のしげる柔らかな土。

ヒールの踵がめり込んで少し歩きにくので、脱いで手に持った。