魔王に甘いくちづけを【完】

話しかけながら指を肩に寄せると、ちょん、と飛び移ってきた。

ぴょこんと首を傾げて真ん丸な瞳が瞬きを繰り返す。



「ティアラの部屋という場所に連れて行かれるらしいの。歴代の人の妃は必ずそこに行くらしいわ」



実はまだ、妃になる決心はしていない。

酷いことばかりされたもの、今も、逃げたいと、心の片隅で思ってる。

愛することなんて、とても出来ないとも思ってる。

けれど、あの日のセラヴィの真剣さと周りを取り巻く事情、それとクリスティナに向ける愛情の強さにほだされたことは事実。

この国を守ろうと、国を変えていこうとする、立派な王としての志にも心を打たれたのもある。


クリスティナは、そういうところに惹かれたのかもしれないと思った。


ティアラの部屋に何があるのかは分からない。

もしかしたら、後戻りできないことになるのかもしれない。



“私の寿命は迫っている。だが、クリスティナ。貴女が妃になれば留めることが出来るのだ”



カフカの王族の中で唯一生き残った私。

その私が、魔の世界に迷い込んだのは偶然ではないのかもしれない。

経過はどうであれ、こうして魔王の城にいることも必然なことで、妃は定められた運命なのだとしたら―――


思い出さなければ。

私の名を。

記憶の全てを。


怖くてたまらないけれど、逃げずに向き合わなければ。

その上で、どうするのか判断しないと。


初代妃の過ごした場所。

人の想いが残る部屋。


「ティアラの部屋がきっかけになればいいけど。記憶を戻すこと、あなたは応援してくれる?」



ぴくんとドアの方を振り返り見たヒインコは、指先から離れるといつもと違った予想外の行動をとっていた。


「え?あ・・待って?・・どうして?」


焦って外に出そうとするけれどももう遅く、ノック音の後すぐにセラヴィが入って来ていた。


「貴女は、何をしていた」

「え・・・何もしていません。少し・・緊張しています」

「ふむ、そうか―――」


怪しむように部屋の中を見廻すセラヴィ。


何か気付かれたのかしら。

不味いわ、見つかってしまうかもしれない。

何か、何か話しかけて気を逸らさないと―――


「あ・・あの、お願いがあるんです」


一歩近づいて伸びあがって顔を見れば、長い腕が腰にまわされて抱き寄せられた。


「む、また何かを作りかえるのか。願いは叶えたいが、尖った物は駄目だぞ」

「えっ・・違います、そうではなくて。ティアラの部屋へは、歩いて行かせて下さい」


「ふむ、歩くのか・・・まぁ、いいだろう。手をここに置け。ゆっくり行く」

「・・・はい」



意外な反応に驚きつつも、手をそっと乗せた。