魔王に甘いくちづけを【完】

ラヴルの漆黒の瞳が妖艶に輝き、ユリアを見下ろしている。

金具を持った指がジリジリと下におろされていく。

背中に冷たい夜気が感じられ、焦るユリア。


「・・・っ!ぃいえっ、結構です」


「私はユリアの全部を知っている。遠慮するな。今更恥ずかしがることではないだろう?」


「ダメです。あの・・・一人で着替えられますから。外で・・・外で待っていてください」


黒い瞳には涙がじんわりと滲み、左手で黒いドレスを胸のあたりでしっかり握りしめ、右手でラヴルの体を懸命に押している。


恥ずかしくて泣きそうなのに、それを見てラヴルは何故かクスクスと笑っている。


――ラヴルはとっても意地悪だわ――


ユリアはありったけの怒りを込めて、ラヴルをじろっと睨んだ。

それでも楽しげにクスクスと笑っている。


「そんな可愛い顔で睨んでも、ちっとも怖くない―――分かった、分かった。外で待っている。だから早く着替えろ。ナーダ、ユリアを頼む」


いつの間にか部屋の外に出ていたナーダを呼び戻し、交替するようにラヴルは部屋の外に出ていった。

ユリアはため息をつきながら、黒いドレスを見つめた。



「どうしてこれが似合うって思えるのかしら。期待はずれにならないといいけど・・・」


黒いドレスに袖を通すと、ナーダが早速メイクと髪をセットし始めた。

ナーダの手が手際良くユリアの顔の周りを動き、あっという間に一人のレディに仕上げていく。

うっすらとメイクが施され、ストレートの黒髪はふんわりと結いあげられ、耳と胸元には大きな宝石が煌いている。


似合わないものだと思い込んでいた黒のドレスも、白い肌によく映え、自分で思うのも何だが、意外と着こなせていた。


――これが、私なの・・・?


ユリアは鏡の中を信じられない気持で見つめていた。


「ラヴル様、どうぞ―――」


ナーダの呼び声にラヴルが静かに入ってきた。

鏡の前で佇んでいるユリアを見て、漆黒の瞳が満足げに細まり、妖艶な微笑みを浮かべた。



「ユリア、綺麗だ・・・さぁ、行くぞ」



ラヴルの腕が目の前に差し出されている。

それを見て、どうしていいのか少しの間迷っていた。

この腕のどこにどう捕まればいいのか分からない。


迷っていると、ラヴルが白い手を掴み、自分の腕にグイッと誘導して乗せた。

その手が重ねられたまま、真剣な瞳が黒い瞳を見つめている。



「いいか、絶対に私から離れるな」