魔王に甘いくちづけを【完】

眩いほどに明るい日の光りは惜しみなく降り注げど温度は弱く、吹きすさぶ冷風で体温がどんどん奪われていく。

草を踏みしめる足もだんだん感覚が無くなってきた。

あれに包まれれば大丈夫、と徐々に動かしづらくなっていく体を何とか励ましながら動かす。

けれど、進めど進めどちっとも毛布に近付けない。

却って遠くなっている気さえする。

長い草に足を取られ、何度も転びそうになりながらも懸命に歩く。


「こっちにおいで」


駄目もとで声を掛けてみるけれど、震えた小さな声では届いていそうにない。


とうとう大きな石に躓いて転びかけたところ、急に現れた黒い布に受け止められた。

盛大なため息が聞こえ、そのままセラヴィの懐に収められる。



「貴女といると退屈せんな」

「・・・私は、ちっとも愉快じゃありません。何故助けたのですか」



もう唇の感覚もない。

寒さで歯を鳴らしながらもそう言えば、漆黒の瞳を一瞬見開かせたあと声を立てて笑った。


・・・今の、一体どこが面白かったのかしら。



「私は、愛しい妃が転ぶのを黙って見守れるほど忍耐強くない。それに―――」


ぐいっと抱き寄せられて、体を包んでる布も肌にぴったりと纏わりつく。


「―――体が冷え切ってゆくことも、だ。我ながらよく我慢したものだ。貴女は何故毛布に拘る。“私がいる”と言ってあっただろう」



怒りを含んだ重低音の声。

見えないけれど表情も怖いに違いない。


勝手だわ。

さっき、世話をかけるなと言ったのは貴方だわ。


足の先まですっぽりと黒い布に覆われてほかほかとあたたかく、肌の感覚も少しずつ戻ってきた。

指先が温かさでジンジンと痺れてる。



「でも、貴方は上着じゃないもの」


何を考えてるのかわからない。

この方にとって私は、つつけば反応する面白い玩具のようなものなのかもしれない。

幼いあの日に、草原で遊んだ、あの花のような―――


きっと吸血族の女性たちは、私みたいな反応をしないのだわ。

もっと素直で従順で。

おまけにしとやかでとても美しい方々だもの。

まだ二人しか見たことないけれど、私とは色香も体つきも全然違っていた。

他にはない珍しさ。

それだけなら、セラヴィもすぐに私に飽きるわ。



「まだ分からんか。私は相手が貴女であれば、上着にもなれるのだ。貴女は私に頼ることを学ばねばならん。か弱いのだ。守り慈しみたいと思う私の心を感じ取れ」



私が辟易した長い草も物ともせずサクサクスタスタと歩くセラヴィ。

あっという間に元の場所に連れ戻されゆっくり下ろされた。


「このように日が弱く、気候がよくないのは王である私のせいだ。・・・妃となる貴女に、話さねばならんことがある」


そう切り出して、セラヴィの話は始まった。