魔王に甘いくちづけを【完】

―――こんな方法でしか外に出られないのかしら、やっぱり。

それともこれはただの時間短縮で、他に術があるのかしら。

私としては、そうでないと困るのだけど。

セラヴィが訪ねて来ない限り、ずっとあそこから出られないことになるんだもの。

今は良いけれど、もしもこの先、急に興味を失って捨て置かれてしまったら―――――


外に出ることも出来ず干からびていく自分の姿を想像してしまい、ぞっとしてぶるっと震える。

現実問題十分にあり得そうなことなのだ。

そもそもセラヴィが何故こんなに私に固執するのかがよくわかっていないのだから。


“私共は、セラヴィ王様が発行された印がなければここには来られません”


そういえば、使用人がそう言ってたっけ。

許されなければ門が開かない、完璧な警護です、とも。

それならドアの衛兵は要らないじゃないと笑ってみせたら

「彼等は貴女様のために必要なのです」

真顔で言っていた。

私のためっていうのは――――?



「む、妃よ。目を瞑れ、痛めるぞ」

「は?―――っ・・・」


あまりに強い光の渦に目が眩む。

闇から明へと急にもたらされた環境の変化についていけず、眼にズキッと痛みが走る。

今更ながらぎゅぅっと瞑るけれどどうにも遅く、瞼の裏が赤くなり涙が滲み出てきた。



「いつも通り愛らしく怯えておれば良いのに、何故今回は目を開けじりりと動いた」


全く本当に貴女は世話が焼ける。ブツブツと小言のような台詞を聞きながら地面に下ろされ、大きな掌が頬を包み込み上を向かされた。


「今少しの我慢だ」


瞼に温かさを感じたあとに痛みが消えていくのは、多分セラヴィが何かしてくれたのだろうと思う。


「体が良くなったばかりだ。再び痛みを加えてどうする」


濡れた睫毛を拭いながら厳しめに言う様は、まるで私だけが悪いと言っているよう。

確かに世話を掛けているけれど、全部貴方のせいなんだから文句を言いたいのは私の方だわ。



「痛みは取れました・・・ありがとうございます」



むっすりと唇を尖らせながらもお礼を言うと、下がり気味の口角が少し上がって、少しだけ瞳が穏やかになった。


「―――ふむ」


体の周りで、ぱっと泡が弾けたような気配を感じたあと、急に自然の息吹が身に届きはじめる。


ぴちょぴちょと水音が聞こえてきて、冷たい風が髪を揺らす。

枝葉がざわめいて足元の草もさわさわとなびく。