魔王に甘いくちづけを【完】

ユリアがルルカが作った苦い薬食を顔を顰めつつも食べている頃。

ラヴルはケルンの屋敷にいた。


部屋の真ん中に立ち、手には数枚の紙切れを持ち、壁にぽっかりと空いた空間をただ見据えていた。

穴の横に布の切れ端が下がってるところを見ると、元が窓であっただろう事がかろうじて分かる。

すぐそこにある木の枝には、凄まじい気に怯えながらもヒインコが逃げもせずにとまっていた。


吹き込む風に吹かれて佇む、ラヴルの温度のない漆黒の瞳。

それが見据える方向には、セラヴィの住む城が望めた。

壁伝いには、粉々に砕けた板やボロボロになった布が山になっていて、壁にあったランプシェードは跡形もなく消えていた。

ドアも破れてしまい、部屋の中に元の形をなしている物は一つもなかった。


「セラヴィ・・・貴様、よくも私のモノを・・少し居ぬ間に・・・」


声に出して言えば怒りが増し、抑えきれずに溢れる力が屋敷を振るわせビリビリミシミシと嫌な音を出す。

侍女や使用人が恐れ騒ぐ声が耳に届いてくるが、抑える気は毛頭ない。




「―――死にたくなくば、逃げろ。後に戻らずとも許す―――」



他を気遣う余裕のあるうちに、屋敷中にとどろく声を出して皆に避難を促す。

湧き出る力を制御するのは難しく、怒りに任せていつ何時屋敷を粉々にするか自分でも分からないのだ。



おかしいとは思っていた。

急に外務を任ぜられ、ツバキとともに数ある出張業務をこなしていれば必然的に自国にいる時が少なくなる。

ほとんどが国外の城に宿をとりルミナどころかこうしてケルンに帰るのも久しいのだ。

バルリークの元で見張りもいると安心しきっていればこの様だ。


「政務で縛り気を逸らし、虎視眈々と攫う期を狙っていたのか」



―――ユリア―――


無理矢理に契約を解除させれば体にはかなりの負担がかかる。

人はか弱きもの。しかも、私の契約だ。

昨夜に感じた胸の痛み、ユリアは命をなくすほどの苦痛に襲われたはずだ。

セラヴィ、そこまでして欲したか。



“ラヴル”


抱けば耳に心地好く届く甘い声。

さらさらと指からこぼれ落ちる柔らかな黒髪。

白い肌にほのかに紅く染まった頬。


大切に、薄布に触れるように、扱ってきた。

身も心も全て、私だけのモノだ。


あの日無理をしてでも連れ帰り、屋敷に置くことなく常に行動を共にさせていればこんなことには・・・。


ぎりりと歯を噛めば気流が生まれ、周りの塵が舞い上がった。



―――まだだ、まだ諦めるな。

奴に抱かれてはいないはずだ。

儀式が成されるまでは取り戻せる―――



手元の紙を今一度みれば落ち着きを取り戻し、怒りが決意に変化していく。


漠然と感じていたことが、この紙を読み確信に変わったのだ。



「待っていろ。約束は、果たす」


必ず――――――――