魔王に甘いくちづけを【完】

そう。

私は、呼ばなくちゃいけない。

この方の名前を。

でも、何だったかしら・・・。

ラ―――違うわ、この名前じゃない。

早く思い出して呼ばないと。



「名前・・・貴方の・・名前・・?」



『そうだ。我が名は、セラヴィ、だ』



「セ・・・ラ・・・・ヴィ・・?」




“ユリア”




―――っ、ラヴル―――!?



「ふむ、好く言った」

「ぃ―――っ!・・ん・・・んぁ・・・ぁ・・・」



名を口にした瞬間、体の中にある何かが弾け飛び、胸に強烈な痛みを感じた。

術に嵌ったとはいえ、あれほど名を呼ばないようにって肝に銘じていた筈なのにそれを破ってしまった。

今更後悔してももう遅い。


息もできないほどの苦しさ。

体中を襲う痛み。


このまま命が消えてしまうのかも。

でもそれも良いかもしれない。


頭もずきずきと痛みだして、呼吸も乱れ悶えていると、大きな掌が額を覆った。


「妃よ、今暫くの我慢だ。すぐに楽にしてやる」


セラヴィの腕の逞しさを感じるとともに首筋にちくんとした痛みが襲った。

徐々に体の芯が火照り、セラヴィがもたらす恍惚に意識が支配されていく。

セラヴィの唇が首から離れていき、満足げに唇を舐めるのが見えた。


ちくちくした痛みが消えて、あれほどに苦しかった頭と胸の痛みが癒えるも、今度は異常な倦怠感に襲われた。


ずん・・と沈み込むような感覚。

体中が鉛のように重く、手も脚も指一本さえも動かせない。

勿論声も出せず、体の具合を訴えることもできない。

これは、ご主人様ラヴルを裏切った罰なのかもしれない。



「む・・これは―――妃よ、しっかりせよ」



・・・ラヴル・・・貴方の他に、肌を許すなんて・・・。

ごめんなさい。きっと貴方は、私を許さないわね。

・・・私はもう貴方の元には・・・・。

戻れないのなら・・もう・・このまま―――・・・



「気が逸ったな。人相手は加減が難しい。―――ルルカ、来い。今すぐだ―――」



セラヴィから空気が振動するような声が出された後、数秒と経たずにドアがノックされて誰かが入ってきた気配がした。



「セラヴィ様、お呼びにより馳せ参じました。っ、この方は。人ではないですか」

「詮索はいい。早急に診よ」



知らない顔。

手が体のあちらこちらを触る。

この方は、まさか、お医者様?


やめて。

治療しないで。

触らないで。


見知らぬ老人の顔がどんどん歪んでいくのが見える。



「これは不味いですな。この方は、既に他の殿方のモノで―――」

「能書きは良い、治せ」



・・・やめて・・・放っておいて・・・


・・おね・・が・・・い・・・――――――