魔王に甘いくちづけを【完】

―――こんな時間に何しに来たの・・・。

というか、体の具合は―――


体を包み込む気は力強く感じられて、病気の気配は微塵も感じられない。

あの時はたまたま辛そうに見えただけなのか。

ヒインコに伝わることを願いつつ「そこから逃げて」と念を送ると同時に、セラヴィから見えないようにそっと合図を送る。

と、分かってくれたのか、すぐに山肌の方へ飛んでいった。

あのコの本能で怖さを感じたかもしれないけれど、逃げてくれたことにホッとした。

暗い中独りきりなんて可哀想だけれど、見つかって攻撃されるより遥かにマシだわ。



「なにも・・・何も、していません・・景色を、眺めていただけです」


「ふむ―――やはり、貴女は緑がいいのだな」



これよりもっと増やそう、貴方は何が良い・・花か・・木か・・。

そう囁いてくるこの声には、媚薬でも含まれているのだろうか、心地好く全身が痺れて力が抜けていく。


意識が柔らかな布に包まれたようにぼやけて、しっかり床についてるはずの足は感覚を失ってしまってどこにあるのかわからない。

ふわふわする体はあまりに心地良くて、まるごとセラヴィに預けそうになるのをお腹に力を集めてなんとか踏ん張った。



「会えず、寂しかったぞ。貴女もか」


「っ・・・そんなこと、ありま・・せんっ・・・ん・・」



耳から首筋にかけてセラヴィの吐息が掛けられて、その熱さをやり過ごそうにもどうにも体は反応してしまう。

ぴくんとする度知らずに握り締めていたカーテンが一緒に揺れる。



「ふむ・・・妃よ。自然に任せよ。逆らおうとするな。我が腕の中に沈め」



さぁ、来い・・と、まったりと甘やかな響きが耳から伝わり体を支配しようとする。

懸命に闘うも、セラヴィが発声するたび体の奥底で何かが熱くうち震えるのを感じる。

発声の加減なのか、魔力なのか。

脅しの他に、こんなことも出来るなんて・・・・―――――――





『ふむ・・そうだ・・そのまま、沈め。・・・今までにない夢を、見させてやる』





セラヴィの声がやけに遠くから聞こえてくる。

視界は霞んでしまって手の力も失い、カーテンは指から滑り落ちて窓の横でゆらゆら揺れていた。

呪文のように繰り返されるセラヴィの誘導の声に従って、力なくぐったりとした体は熱の籠められた気の中に徐々に沈んでいく。