魔王に甘いくちづけを【完】

何にしても心が跳ね上がるような出来事。

驚かさないよう慎重に近付いていけば、ヒインコの瞳は動かずにじーっと此方に向けられているのが分かった。

横に動けばヒインコの小さな瞳も一緒に動く。

止まると窓ガラスに近付いてきたので、腰を屈めて目線を合わせてみた。


「あなた、もしかして、私に興味があるの?」


微笑みながら優しく問いかけると、小さな頭をぴょこんと傾げた。


―――可愛いっ―――

むらむらと愛玩心が湧きあがり、どうにも触れたくなって自然に手が伸びる。

コツン、と指先が当たって、憎らしくも透明な板に阻まれて悔しさに唇が尖った。


「もう、この窓が開けばいいのに」


思いがけず大きな声を出してしまい、驚いて逃げてしまうかと焦って口を押さえる。

ヒインコは変わらずにそこにいて、心なしか潤んでる瞳でじぃっと見つめていた。

その様は“お願い、中に入れて”と言っているように見えて、「何とかしなければ」と使命感に似たものが湧きあがってきた。

窓のそばをうろうろと行きつ戻りつしながら考える。



―――外はすっかり暗くなっているもの、こんな小さなコ、暗闇の中に放っておくわけにはいかないわ。

ここに来たのも、灯がついて明るいからかもしれないもの。

すぐにでも部屋に入れてあげたいけれど、窓を割るわけにもいかない。

派手な音がすれば衛兵が飛び込んできて、ヒインコは追い払われてしまうわ。

最悪剣で切られてしまうかも・・・。

そんなの、絶対にダメなんだから、と呟きながら首をぷるぷる振って、嫌な想像を吹き飛ばす。


何とか音が出ない方法はないものかしら―――


そう考え始めてハタと気付いた。



・・・そうだわ。

そうしたくても、出来ないんだった。

そもそも、道具になるものがないじゃない・・・。



セラヴィに排除されてから、手で持てるほどの大きさの堅いものや尖ったものが軒並み全部無くなっていたのだった。


ベッドサイドにあった手持ちの燭台も、石造りのペン入れも。


ふぅ・・と息を吐いて改めて窓を眺めまわす。

試しに手で押してみてもビクともしない。



「ん――っと、どうにかできないかしら?」



「ふむ、何のことだ」


不意に背後から声がして、心臓が跳ね上がるのと一緒に体も飛び上がって叫び声もでる。


「きゃぁっ」


ふわっとした気に体を包まれ、耳の傍で重低音の声が

「貴女は、何をしている」

と、囁くように問いかけてきた。