魔王に甘いくちづけを【完】

むっすりして無機質で透明なだけの板を睨みつける。

けれど、いくらそうしていてもガラスが溶けてなくなってくれるわけでもなく、現状はまったく変わらない。

セラヴィのように不思議な力があるわけでもないのだ。

諦めて、この部屋での定位置と化したソファに戻り、習慣になりつつある、暮れて暗くなっていく山肌の景色を眺めることにした。


影がどんどん動いて薄く長くなっていくのと同時に、部屋の中も薄暗くなっていく。

自然の流れを最も感じられるひととき。

一日の中で、一番眺望が様変わりする時。

この時間が好きになりつつあった。

他に何の楽しみもないせいもある。


どんどん暗さを増していく中でも、緑の中にある紅い点はくっきりと鮮やかに見えてますます惹かれる。



「まるで、ひとかけらの宝石みたいね・・・」


ちっとも動かないけれど、あのコはあそこに巣を作るつもりなのかしら。

そうだとしたら、とても嬉しいことだわ。



・・・ポッ・・・ポン・・ポッ・・・・


小さな音が壁のあちこちから聞こえて来る。

ランプシェードに灯りがともった音。

静かな中急に音がするので最初は驚いてキョロキョロしたけれど、3回目ともなると慣れてくる。

どういう仕掛けになってるのか不思議に思うけれど、夕暮れが深まると何の操作もしなくても自然に火が灯るのだ。

だから、当然侍女も使用人も来ない。

この城には沢山の方が働いているのだろうけど、声も物音もこの部屋の中には届いてこない。



「バルの城宮は、賑やかだったわね・・・」


いつも誰かが傍にいて、たまに、部屋の中に一人でいる時も、廊下や外から足音やヒトの声が聞こえてきた。

こんなに一人きりの時間が長いと、捨て置かれているようで切なくなる。

世界から切り離されて、孤独な空間に入れられてしまったような。

存在を忘れられてるのかも、とも思ってしまう。

だから、無の世界に色をくれたあのコの存在がなおさらに嬉しく愛しく思うのだ。

あそこにいるというだけで心が躍ってしまうのだ。



じっと眺めてる紅い点に変化があるのに気付いて、思わず身を乗り出した。

点が徐々に大きくなっていて微かに上下に動いている。

どんどん近付いてきて、窓の向こうのでっぱりにちょこんととまった。

顔は中に向けられて、ちょんちょんと飛ぶように往復している。



どうもこのお部屋に興味があるみたいね。

灯りが点いたから、それに誘われてきたのかしら。