魔王に甘いくちづけを【完】

その割には寒くなくて、肩を出したデザインのドレスでも震えることなく快適に過ごせている。

夜も気温の変化を感じない。

部屋には暖炉らしき設備もないところを見ると、セラヴィの魔力が快適な空気を作ってるのだろうと思う。

緑葉の群れが風に吹かれて揺れる様子をぼーっと眺めていると、その直中に紅い何かがツィー・・と素早く動くのが見えた。


山の斜面をなぞるように動きまわるそれは、緑色の中に紅い線を描くように滑らかに飛び回っている。


――あれは、鳥よね・・?

目を凝らしてよく見れば、小さな翼があるように見える。

色鮮やかな紅い羽を持った姿はどこかで見たような気がした。


・・・どこで見たんだっけ・・・?


「そうだわ。あれは・・・確か・・・」



“あれは、ヒインコです”


そう。

あの鳥に似てるんだわ。

何処からともなく飛んできて、屋根の上にとまってたあのコに。

あの時見たのと同じ鳥かしら。だとしたら、すごい偶然だわ。


単純にもそれだけのことが嬉しく思えてしまって、ひたすら紅い影を目で追う。

ヒインコはだんだん此方に近付いてきていて、時々建物を掠めるようにして飛び回ってる。



「とても可愛いわ・・・この窓に立ち寄らないかしら」



いつの間にかペットになっていた、白フクロウさんのことを思い出してしまう。


・・・あの子みたいになればいいな。

そうしたら寂しくないもの・・・。



ヒインコは窓のそばを通り過ぎていくと、山肌に戻っていった。

緑の葉の中に紅い点のように見えて動かないのは、きっと枝にとまって羽を休めているんだろう。



「そうだわ。手招きして呼んでみようかしら」



あのコは気付かないかもしれない。

却って逃げてしまうかも。

けど、もしかしたら仲良くなれるかもしれない。


ワクワクと心を浮き立たせ、まだ一度も開けたことのない窓を眺めまわす。



―――・・・どうやって開けるのかしら、これ。

そもそも開けることが出来るのかしら・・・。



じっくり観察すれば、壁がくり抜かれたところにぴったりと嵌めこまれているようで、鍵が見当たらない。

桟も平らかで、ここから左右に折れるとか、ここで上下に別れるとか、そういった開くための要素が何一つ見当たらなかった。


結構大きな窓なのに・・・。

多分、押しても引いても無理だわ。



「何てことなの、空気を入れ替えることも出来ないなんて、採光だけしか役に立たないじゃない」